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茨城県妖怪探検隊の取材で県南の某市U沼に妻と二人で車で赴いたときのことだ。U沼は河童の伝説で知られており、この日の取材も河童伝説をテーマにしたものだった。無論、本物の河童に出会えるとは思っていない。いつもの取材のように、伝説にゆかりのある施設や場所を巡り、その雰囲気を写真や文章に残すのである。
何はさておき、ちょっとした湖ともいえる巨大なU沼の絵がほしかった。北岸はほぼ林に覆われており、南岸から撮影するのが無難のようである。
実は南岸の東の外れに公園があり、そこがとっておきのポイントだった。わたしたちはそこを知らずに、南岸の西側まで行ってしまったのだ。
なんとか湖岸に近づこうと、センターラインのある広い道を外れ、湖岸に平行しているであろう細い道に入った。しかし、背の高いススキが群生しており、湖の「み」の字も見えない。
わたしは車を道端の空き地に停めた。そして妻とともに、おそらく湖岸へと続いているだろう小道へと足を踏み入れた。
ススキの群生地を抜けるその道は、未舗装の小道とはいえ、三メートルほどの幅があった。まず、袋小路ということはないだろう。
期待に胸を躍らせて先頭を歩いていたわたしは、ふと、足を止めた。
地面を黒い何かが覆っている。まるで黒い絨毯だ。
それは道幅いっぱいに広がっていた。つまり、幅は三メートルほどあるわけだ。そして奥行きもやはり三メートルほどある。
「どうしたの?」と尋ねる妻をわたしは制し、その黒い何かの手前まで進んで身を屈めた。
コールタールが固まったもの、のように思えた。それにしてもかなり干からびている。加えて、こぶのような盛り上がりがいくつも見え、あちこちに白い紙が散らばっていた。どうやら、白い紙は使用済みのティッシュらしい。
数秒後、わたしは黒い何かの正体を悟り、後方へ飛び跳ねた。
ぶつかりそうになったわたしを避けつつ、妻が叫ぶ。
「なんなのよ!」
「人糞……人間のうんこだよ!」
妻に負けず劣らず、わたしも叫んだ。
最初の用足しは問題なく気持ちよくできたはずだ。しかし、二人目以降、もしくは二度目以降の用足しは、しゃがむ位置に十分な配慮が必要だったに違いない。大便をするために大便の上に足を載せる人はいない。そうやって繰り返すうちに、人糞の絨毯が広がっていったのだろう。
わたしは人糞の絨毯を見下ろしながら、名優スティーブ・マックイーン主演のSFパニック映画「The Blob(放題は「マックイーンの絶対の危機」テレビ放映時のタイトルは「SF人喰いアメーバの恐怖」)」を思い出していた。スライム状の宇宙生物が人間を補食しながら巨大化していく、という内容である。その怪物が、この黒い汚物のような姿だった。
わたしは思わずつぶやいた。
「まさかこいつが襲ってくることはないだろうけど」
人喰いアメーバも嫌だが、人喰い人糞はもっと嫌だ。
では、いったい誰がこんなところにクソを垂れたのだろうか?
「釣り人だよ、きっと」
妻は言った。その可能性は否めない。
「だとしたら、ほかにもあるかもな」
とこぼしつつ、わたしはげんなりとした。
この程度の規模なら飛び越せるだろうが、万が一にでも失敗すれば、一生の悔いとなる。
車でその場をあとにしたわたしたちは、それから数分後には無事に湖岸の公園を見つけ、広々とした水面を撮影することができた。
あの黒い絨毯は今でも増殖しているのだろうか?