[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
その夏、Oさんは仲間とともに某海水浴に出かけた。彼が住んでいるのは茨城県内だが、目的地の海水浴場は茨城県の隣県だった。
夏真っ盛りだった。海水浴場は、老若男女の海水浴客で賑わっていた。
思いっ切り遊泳を楽しんだOさんは、仲間とともに浜辺で休憩することにした。
どれほどの時間が過ぎただろうか……ふと、仲間の一人がカメラを取り出して沖のほうにレンズを向けた。どうやら夏の海をフレームに納めたかったらしい。
周囲が騒然となったのは、その直後だった。
「子供が溺れているぞ!」
近くにいた人の叫び声で、Oさんたちは事態を知り得た。溺れているのは小学生の男子児童だった。しかし、Oさんたちにできることは何もなかった。
結局、その子は助からなかった。Oさんたちは興醒めして帰路に就いた。
後日、仲間の一人がOさんの家に訪れた。海水浴場でカメラを手にしていた友人である。
「ちょっと見てもらいたいんだ」そう言って友人が差し出したのは一枚の写真だった。「あのとき海を撮影したんだけれど、ちょうど、子供が溺れているところが入っちゃってさ」
写真週刊誌にでも投稿すれば採用されるかもしれないが、Oさんとしてはそれを見るのも気が引けた。
「子供が溺れている瞬間の写真なんて、おれ、見たくないよ」
「違うんだよ」友人は救いを求めるかのような表情だった。「変なんだよ、この写真。頼むから見てくれよ」
懇願されたOさんは渋々と写真を受け取り、そして目を見開いた。
「なんだこれ……」
確かに写真の中の少年は、波間でもがいているようだった。しかし、それだけではなかった。長い白髪を振り乱した老婆が、少年の背後の海面に浮かんでいるのだ。しかも、凶器に満ちた形相で、少年を海中に押し入れようとしているのである。
写真を持つOさんの手が震えた。
Oさんと友人は、この写真をどうにか処分できないか、と考えた。だが、恐ろしさのあまり安易な手段は取れない。そこで、写真週刊誌ではなく、当時放送されていた心霊系の番組宛に、その写真を投稿してみた。
何日か経って、テレビ局から一通の封書が友人に届いた。封書には例の写真が入っていた。同封の手紙によると「あまりにも恐ろしい写真なので、うちの番組では使えません」とのことだった。
この話を教えてくれたのは、茨城県妖怪探検隊の仲間であるNさんだ。ところがよく聞いてみると、Nさんは、この話に登場するOさんとの面識はないらしい。
「実はさ、この話をおれに教えてくれたのは、Eさんなんだよ」
彼の言うEさんなら、わたしの知人でもある。
だがさらに雲行きが怪しくなってきた。Nさんによれば、そのEさんも、誰かから聞いたとのことらしい。
「又聞きも又聞きだなあ」
脱力したわたしに、さらなる懸念が浮かんだ。似たような話を聞いたことがあるのだ。
さっそくネットで検索してみたが、出るわ出るわ。「溺れている人を写真に撮ると変なものまで一緒に写るという怪異」と、「やばい写真をテレビ局に送ったら送り返されたという出来事」は別々のケースであることが多いが、似たような話はかなり流布しているのだ。
できればOさんに直接確認したいのだが、Eさんとでさえ現在は付き合いがない、という事情がある。話の出所が突き止めらないわけだ。しかも、真の情報提供者は誰なのか、未だにNさんにもわからないらしい。
こういった又聞きの怪異譚の出所を辿ろうとしても、概ねは失敗に終わる。ことの発端には辿り着けないものなのだ。
たとえばやっとOさんに会うことができたとしても「いやあ、あの話はおれじゃなくて、おれの知り合いが誰かから聞いたものなんだよ」などという答えが返ってくるのが関の山だろう。
もっとも、Oさんという人物が実在していれば、の話であるが……。
イーブックイニシアティブジャパン eBookJapan