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当ブログは「茨城県妖怪探検隊」のコンテンツです。茨城県在住の方が体験した「怖い出来事」、もしくは茨城県内で起きた「怖い出来事」を、文章として起こしたものです。 当ブログに掲載する恐怖体験には超常現象的でないものも含まれます。怪談実話ばかりではないことをご了承ください。 また、体験者や関係者のプライバシーを考慮し、一部の内容を修正してあります。
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 くどいようだが、わたしは心霊現象を信じもしないし、それらが見えるわけでもない。だが世の中には、見えてしまうために損をするという方々がいる。「霊」を見てしまい、せっかくの楽しい時間をスポイルされてしまうのだ。それを思えば、見えないあなたは幸せである。

 茨城県妖怪探検隊の隊員である「よしくんさん」は、整体師であり、その腕はお墨付きだ。そしてもう一つの彼の特技は、見てしまうことである。
 一緒に出かけても、「ここはやばいな」とか「そこにいるんだよ」と訴えるものだから、信じる人にとっては怖くてたまらないだろう。無論、信じないわたしにしてみればどこ吹く風なのだが。
 さて、そんなよしくんさんの「楽しい時間をスポイルされてしまった」という体験である。
 よしくんさんは仕事柄、平日が休日だ。その休日に、彼はよく温泉や露天風呂に出かける。
 梅雨とあって曇りがちな日だった。しかしせっかくの休日なのだ。よしくんさんは思い立って車で出かけた。
 行き先は海の近くにある露天風呂だった。ぱっとしない空模様のうえに平日だったが、客はそこそこ入っていた。
 眺望できる広い湯船にどっぷりと浸かったよしくんさんは、「やっぱ人生このときのために生きてるようなものよね」と口に出かかったが、ほかの客の手前でもあり、また自分の年を考えて押し黙った。
 見上げれば灰色の空だが、白だろうが青だろうが、広ければ構わなかった。この心地よさは何ものにも代えがたい。
 何げに視線を下ろした。どんよりとした空の下には、これまた灰色の茫漠たる太平洋があった。その海の彼方に、黒くてもやもやした何かがが蠢いていた。
「何だろう……煙じゃないよなあ」
 目を凝らしていると、黒いもやもやがなんらかの形を取り始めたではないか。
「なんか、やばそう」
 もう出たほうがいいかもしれない、そう思ったときだった。
 黒いもやもやが露天風呂のほうへと向かってきたのだ。しかも、それは人の形だった。
 声も出せず、ただ無言のまま、よしくんさんは立ち上がって脱衣所へと急いだ。
 周りの客にはその黒いもやもやが見えなかったに違いない。彼らに見えたものといえば、よしくんさんの立派な黒いもやもやだけだったろう。

「おれが急に立ち上がって出ていったから、周りの人は変に思ったかも」
 よしくんさんは最後にそう付け加えた。
 ほかの客にとっては、よしくんさんが出ていったあとも、ずっと幸福な時間だったわけである。

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プロフィール
HN:
士郎
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性別:
非公開
自己紹介:
茨城県妖怪探検隊の隊長をやっています。
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