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わたしの小学校時代の話である。
自宅近所の田んぼの外れに篠の藪があったのだが、わたしは数人の仲間とともにその一部を整備して、いわゆる秘密基地にしていた。
ある日、わたしたちはいつものように秘密基地で遊んでいた。どんな用事があったのか、また、どんな遊びをしていたのか忘れてしまったが、ともかくわたしは、その秘密基地に隣接する田んぼを走っていた。
農閑期であり、田んぼに水はなく、稲の切り株がぼつんぼつんと残されている状態だった。まともに走れる状態でないのは、大の大人が考えればわかるだろう。案の定、わたしはその稲の切り株につまずいてうつ伏せに転んでしまった。擦り傷くらいは負ったかもしれないが、少なくとも大した怪我はしていなかった。
起き上がろうとしておもむろに顔を上げたわたしは、ぎょっとした。顔のすぐ左隣に、篠の切り株があったのだ。明らかに刃物で切った跡であり、切り口は斜めに一直線である。竹槍の先端のごとしだ。わたしの転倒した場所があと十センチも左にずれていたら、篠の切り株が左目を貫いていたかもしれない。
怖いものからは無意識のうちに目を逸らすものだ。起き上がる途中の姿勢で固まったまま、わたしは右に顔を向けた。
すぐ目の前、ちょうど篠の切り株の反対の位置に、猫がこちらに顔を向けて横になっていた。
わたしは息を呑んだ。
猫は目を見開いてわたしを凝視していた。しかし、開いているのは、左右どちらかは忘れてしまったが、片方の目だけである。もう片方の目は、ただの穴だった。
猫は動かなかった。息をしている様子もない。
一匹の蠅が、そのただの穴を出入りしていた。
わたしは飛び起き、仲間たちの元へと走った。
事情を伝えると、好奇心に駆られたのか、仲間たちは猫の死骸のほうへと走った。わたしはもう見たくないため、遠巻きに仲間たちの様子を窺っていた。
猫の死骸の前で足を止めた仲間たちは、ほんの一瞬、呆然としたかと思うと、すぐに向きを変え、「うわーっ!」と叫びながらこちらに走ってきた。
自宅近所の田んぼの外れに篠の藪があったのだが、わたしは数人の仲間とともにその一部を整備して、いわゆる秘密基地にしていた。
ある日、わたしたちはいつものように秘密基地で遊んでいた。どんな用事があったのか、また、どんな遊びをしていたのか忘れてしまったが、ともかくわたしは、その秘密基地に隣接する田んぼを走っていた。
農閑期であり、田んぼに水はなく、稲の切り株がぼつんぼつんと残されている状態だった。まともに走れる状態でないのは、大の大人が考えればわかるだろう。案の定、わたしはその稲の切り株につまずいてうつ伏せに転んでしまった。擦り傷くらいは負ったかもしれないが、少なくとも大した怪我はしていなかった。
起き上がろうとしておもむろに顔を上げたわたしは、ぎょっとした。顔のすぐ左隣に、篠の切り株があったのだ。明らかに刃物で切った跡であり、切り口は斜めに一直線である。竹槍の先端のごとしだ。わたしの転倒した場所があと十センチも左にずれていたら、篠の切り株が左目を貫いていたかもしれない。
怖いものからは無意識のうちに目を逸らすものだ。起き上がる途中の姿勢で固まったまま、わたしは右に顔を向けた。
すぐ目の前、ちょうど篠の切り株の反対の位置に、猫がこちらに顔を向けて横になっていた。
わたしは息を呑んだ。
猫は目を見開いてわたしを凝視していた。しかし、開いているのは、左右どちらかは忘れてしまったが、片方の目だけである。もう片方の目は、ただの穴だった。
猫は動かなかった。息をしている様子もない。
一匹の蠅が、そのただの穴を出入りしていた。
わたしは飛び起き、仲間たちの元へと走った。
事情を伝えると、好奇心に駆られたのか、仲間たちは猫の死骸のほうへと走った。わたしはもう見たくないため、遠巻きに仲間たちの様子を窺っていた。
猫の死骸の前で足を止めた仲間たちは、ほんの一瞬、呆然としたかと思うと、すぐに向きを変え、「うわーっ!」と叫びながらこちらに走ってきた。
あとになって、わたしは仲間の一人に言われた。
「あの猫、自分と同じ目に遭わせようとして、あそこに呼んだんじゃないのかな? それでさ、わざと転ばせたんじゃないかな?」
だとしても、どうしてわたしが標的なのだろう。わたしが生前のあの猫に何かしたというのだろうか。そんな覚えはまったくない。
いや、覚えがないだけで、何かしていたのかもしれない。だいたい、人に嫌われることなんてした覚えがなくても、実は何かしでかしていた……ということがあり得るくらいのだから。
「あの猫、自分と同じ目に遭わせようとして、あそこに呼んだんじゃないのかな? それでさ、わざと転ばせたんじゃないかな?」
だとしても、どうしてわたしが標的なのだろう。わたしが生前のあの猫に何かしたというのだろうか。そんな覚えはまったくない。
いや、覚えがないだけで、何かしていたのかもしれない。だいたい、人に嫌われることなんてした覚えがなくても、実は何かしでかしていた……ということがあり得るくらいのだから。
わたしが自宅の庭で野良仕事をしていると、どこからともなく白い猫がやってくる。週に二回ほど顔を合わせるだろうか。その猫は、わたしが作業しているそばまで来ると、ごろんと横になって寝てしまう。場合によっては思いっ切り仰向けという油断し切った姿である。
今のところ、この猫には嫌われていないようだ。
今のところ、この猫には嫌われていないようだ。
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