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当ブログは「茨城県妖怪探検隊」のコンテンツです。茨城県在住の方が体験した「怖い出来事」、もしくは茨城県内で起きた「怖い出来事」を、文章として起こしたものです。 当ブログに掲載する恐怖体験には超常現象的でないものも含まれます。怪談実話ばかりではないことをご了承ください。 また、体験者や関係者のプライバシーを考慮し、一部の内容を修正してあります。
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 限界集落に住む前出のTさんの話である。

 ある日の夕方、Tさん宅に顔見知りの主婦Bさんが駆け込んできた。

「Tさん! Tさん!」

 Bさんは玄関先で声を上げ続けた。

「Bさん、何を慌てているの?」

 出迎えたTさんはBさんの取り乱しように困惑した。

「人が……人が首を吊っているのよ!」

 Tさんの惚けたような態度に業を煮やしたのか、Bさんは苛立ちをあらわにして訴えた。

 

 BさんはTさん宅よりさらに奥の集落にある自宅に車で帰宅する途中だった。ところが、車同士がどうにかすれ違える程度のその舗装路の真ん中に、一台の車が停まっているではないか。

Bさんは自分の車から降り、道を塞いでいる車に近づいた。車中を覗いてみるが、誰も乗っていない。

ふと、Bさんは視界の隅……上のほうに違和感を覚えた。道端に立っている電柱を見上げると、四肢をだらりと弛緩させた人間がぶら下がっていた。

 

 まことに不甲斐ないのだが、わたしはこの自殺者の性別や年齢を忘れてしまった。

 ともかく、Tさんはすぐに警察に通報し、この事件は一応の決着を迎えた。

 しかしその当時、自殺や死体遺棄事件が茨城県北地域の山間部で多発していたのである。Tさんの自宅付近でも前記の事件のほかに、自殺や死体遺棄事件が何件かあったのだ。

 たとえば……。

Tさん宅から数キロ北上した道端に、一台の車が何日も放置されていた。不審に思った人(集落の住人か営林署の職員)がその車の近辺を調べてみると、一人の若い女性が木の枝にロープをかけて首を吊って死んでいた。

 さらにこの集落の近くにあるKダムでは、少なくともTさんが知る限り二台の車が運転手ごと沈むという事件があった。どちらも自殺らしい。

 また、集落内の道端で若い男性が車中に排ガスを引き込んで自殺しようとしていた、という事件があった。これは近所の人たちが止めに入り、幸いにも未遂で済んだ。

 死体遺棄事件としては、二十年以上前の事件ではあるが、集落を流れる川の下流で人間の手足や胴が発見されるという猟奇的なものがあった。

 Tさん宅の近辺だけでも、これらの事件があったのである。県北部全域に範囲を広げれば相当な件数になるだろう。

 自殺や死体遺棄はテレビのニュースや新聞の記事で毎日のように見かける。日本全国のどこかで、この瞬間にも悲惨な出来事が起きているかもしれない。何もTさん宅の近辺に限ったことではないだろう。

 だが、Tさん宅のある集落を初めとする県北地域――特に山間部では、人口密度が低いにもかかわらず、こういった物騒な事件の起こる頻度が高いのだ。

 死体遺棄の犯人や自殺志願者を呼び寄せる何かがいるのだろうか?

 

 東京など首都圏内で殺人を犯した人間が、被害者の死体を処分するために、「車で運んでどこかに捨てよう」と模索した、とする。犯罪者は北に逃走することが多い、とも聞いたことがあるが、ならば死体を遺棄するにも首都圏を離れて北に向かうだろう。

たとえば常磐自動車道で移動したとする。

 加平を過ぎた辺りで高層ビルは減ってくるが、車は多い。まだ人の気配に満ちており、この辺では死体を遺棄できない。

三郷を過ぎ、利根川を渡って茨城県に入ると、田畑や山が多くなるが、まだ交通量はそれなりにある。この辺も人目が気になる地域だ。

 水戸インターチェンジからは、それまで片側三車線だった車線が二車線へと減少し、交通量も減ってくる。「そろそろいいかな」と考え始める頃だろう。

 そして日立南インターチェンジの付近にさしかかると、進行方向に広大な山並みが現れる。「この辺りがいいだろう」と考える頃だ。

 結果、日立北インターチェンジ以北で常磐自動車道を降り、山間部を目指す、というわけである。

死体遺棄の犯人だけでなく、自殺志願者も同様だろう。また、首都圏以外、県内や他の地域からもそういった輩が来る、という仮説も成り立つかもしれない。

 要するに、県北地域の山間部は死体を遺棄したり自殺するのに都合の良い土地なのである。それだけ人目が少なく、さみしい場所なのだ。

 

 もっとも、最近はこうした物騒な話は耳にしない。それともわたしが知らないだけなのだろうか。

 情報を得るべく、大型バイクにまたがり、久しぶりにTさん宅へと向かった。

 Tさん宅の前は路肩が駐車場のように広く、わたしはそこへバイクを停めた。ヘルメットを脱いでTさん宅に足を向けるが、何か様子がおかしい。庭が荒れ放題で、人の気配がない。

 躊躇していると、一台のバイクがやってきて、わたしのバイクの横で停止した。見れば、わたしのバイク仲間のJくんだった。

「あれ、奇遇ですね」

 ヘルメットを脱ぎながらJくんは言った。

「本当だね」わたしはうなずいた。「ところで、ここのおばちゃんは留守みたいだね」

 ここは以前、バイク乗りのたまり場だった。そのおかげで、Tさんは多くのバイク乗りと顔見知りだったのである。

「もうここには誰も住んでいませんよ」

 Jくんのその言葉に、わたしは唖然とした。

「それ、本当?」

Tさんには独立したお子さんが何人かいましたよね。そのうちの一人の家族と同居しているんじゃないですかね。こんなところで独り暮らしでは不便で物騒だし、それで良かったんですよ」

 向こう側に呼ばれる前にここを出ることができた、とも受け止められるのだろうか。

 

 この集落はいずれ廃村となるだろう。

 静まりかえった山里を見渡したわたしは、昔日の残像に手招きをされているような気がした。

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茨城県妖怪探検隊の隊長をやっています。
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