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この期に及んで手のひらを返すようだが、心霊現象や超常現象の類いについて、わたしはどちらかといえば懐疑的だ。確かに「超常現象スペシャル」と謳った番組はよく見ているし、怪談実話の単行本も数冊所有している。だが「信じているから好き」なのではなく、ホラー映画をフィクションとして楽しむ、あの感覚なのだ。怪談実話やホラー小説を執筆している作家にも、信じていない方々はいらっしゃる。そんな作家の皆さんはただ単に「好きなだけ」なのだ。
そんなわけでお化けが好きなだけのわたしだが、「あれは一体なんだったのだろう?」という経験が一度ならずある。
わたしの話である。
その当時、結婚したばかりで二十代前半だったわたしは、心霊現象に肯定的であり、今にして思えば恥ずかしい限りであるが、頻繁に心霊スポット巡りをしていた。若気の至りというものである。
あるとき、前出のMさん(「信じる者も信じぬ者も救われる」に登場)と、わたしの知人であるNさん、わたしの三人で、茨城県北部でも特に有名な心霊スポットである某所に出向いた。移動距離があるため、車での移動だった。その心霊スポットの様子をここに記すとほぼ間違いなく場所が特定されてしまうので、心霊スポットレポートは割愛する。
最初の異変は帰路についた車中で起きた。Nさんはなんともないのだが、Mさんとわたしが、左肩にこりを感じたのである。
「なんか、左肩が重いんだけど」とわたしが言うと、Mさんも左肩を押さえて「おれも左肩がものすごくこっている感じなんだ」と言った。
今でこそ「極度の緊張から起こった現象」と思えるのだが、その頃のわたしは肯定派だったので、恐ろしさのあまり震え上がったものだ。少なくともその心霊スポットで圧倒されていたのは事実である。とはいえ、その心霊スポットから一キロほど遠ざかると、Mさんとわたしの左肩のこりは、同時に消えてしまった。
左肩のこりが医学的に説明できる現象か心霊現象なのかは別として、とにかくそれはまだ序の口だった。
妻の待つアパートに帰り、床について数時間後のことだ。
「ふーうううん、ふーうううん、ふーうううん……」という不気味な声を耳にして、わたしは目を覚ました。上体を起こして隣の布団を見れば、妻がうなされているではないか。
それにしても不気味なうなされようだ。普段よりも高い声で、かつ一定の調子で「ふーうううん、ふーうううん、ふーうううん……」と声を上げているのである。
わたしは妻の肩をつかみ、「おい大丈夫か?」と声をかけながら揺さぶった。
次の瞬間――。
「ぎゃああああああ!」
と妻が叫んだ。
思わず、わたしは妻の肩から手を話して固まってしまった。
息を荒らげながら妻は目を覚ました。
「怖い夢でも見たのか?」
尋ねたわたしに、妻は息を落ち着けながら答える。
「仏壇の人形が……」
「仏壇?」わたしたちが住んでいる部屋に仏壇はない。「夢に仏壇が出たの?」
「うん。わたしの実家だった。実家の仏壇のある部屋。その部屋を通って奥の部屋に行こうとしていたんだけど、仏壇の前を横切らなきゃならないの」
「それで?」
「仏壇にね、お菊人形があるんだよ」 髪が伸びることで一世を風靡したあの日本人形のことである。「そのお菊人形がね、前後に揺れているの。ふーうううん、ふーうううん、ふーうううん……って声を立てながら」
唾を飲み込むわたしを尻目に、妻は話を続ける。
「でもね、どうしても奥の部屋に行きたいの。だから、怖いけど仏壇の前を横切ろうとしたのよ。そうしたら、お菊人形の手が伸びてきて、わたしの肩をつかんだの!」
お菊人形に肩をつかまれて目を覚ましたわけだ。
数日後、妻は「霊感が強い人」と自称する知り合いにその夜の出来事を話した。その知り合いは「あなたの旦那さんが心霊スポットから悪霊を連れてきたのよ」と答えたらしい。
わたしはその知り合いに胡散臭さを覚え、特にお祓いなどしなかった。同じようなことは今に至るまで起こっていない。
わたしが心霊現象や超常現象に懐疑的になったのは、おそらくその頃からだったと思う。